はじめに

離婚後の子育てには子どもが安心して過ごせる環境を整えることが不可欠です。しかし、離婚となってしまった親同士が常に子供を最優先とした共同監護を進めるのは簡単なことではありません。特に離婚直後は感情的な衝突や怒りが交錯し、そうした感情が不本意に子どもに悪影響を与える可能性も少なくありません。そういった時に重要になってくるのが、「アンガーマネジメント」です。「アンガーマネジメント」は、自分の怒りをコントロールし、冷静に対応できる力を与えてくれ、いわゆる「大人の対応」を通じ、親子関係や親同士の関係を良好に保つことを補助します。本記事では、夫婦問題と親子関係を区別し、感情を上手にコントロールする為の具体的な方法について解説していきます。。

1. 夫婦の問題と親子の問題の切り分け

離婚後の共同子育てにまず必要なこと、それは、夫婦間の問題と親子間の問題を切り分けて考えることです。父母の離婚に様々な事情があるのは当然ですが、どの家庭においても子供に責任はありません。共同子育てを円滑に進めていく上では、夫婦間の感情的なもつれを子どもに持ち込まず、「大人の対応」で協力し合い、子育てに取り組む姿勢が非常に重要となっています。
また、子どもは親の感情に敏感であり、父母間の不和や怒りが心に悪影響を与えることもあります。離婚後の子育てには、父母が互いの感情的な問題と子育ての問題を切り離し、冷静に対処するテクニックが必要であり、それが「アンガーマネジメント」と呼ばれるものです

2. 離婚後の共同監護における父母の役割と課題

共同監護は、子どもの福祉を最優先に考えて作られた制度であり、それが理由で共同親権を選択される父母の方も少なくないはずです。この制度のメリットは、子どもが両親と継続的に関わることで安心感を得られることや、育児経験や価値観を共有できる点です。一方、そこに潜む主なリスクは、共同子育ての中で親同士の意見の食い違いや感情的な衝突が発生し、子どもに悪影響を及ぼしかねない点です。
これらの問題を回避する為には、子どもの養育ルールやスケジュールを明確化しておくことに加え、互いの親としての役割を尊重し、感情的な衝突や誤解が生じた場合は、怒りや不満を自ら冷静にコントロールし、「子どもにとっての最良」という点に意識の向け先を整えていくことが重要となっています

3. なぜ感情のコントロールが必要なのか

親の感情コントロールは離婚後の共同監護において非常に重要です。親の感情的な乱れは、子どもの心の安定を損なう原因となります。怒りや不満を子どもに向けると、不安や混乱を引き起こし、情緒の発達に悪影響を与えることもあります。また、親同士の関係悪化にもつながり、限られたコミュニケーションの中で子育てを行う共同監護において、これは一般的な社会間でのそれ以上に課題となることがあります。
一方、感情をコントロールできる関係においては、冷静に話し合いを進めやすく、対立を避けて円滑なコミュニケーションが可能となり、離婚後は純粋に子育てのことだけを考えて過ごすことができます。

また、「親権って何?─親権の仕組みと法律をわかりやすく解説」の記事でも一部触れておりますが、2026年4月に施行される民法では、「父母間での協力義務」が重要であると位置付けられており、父母間での感情的な言動は法的手続きにおいても不利になる可能性があるものと言われています。

4. アンガーマネジメントとは何か

アンガーマネジメントとは、自分の怒りの感情を客観的に理解し、適切にコントロールする技術です。怒りは自然な感情ですが、過剰に表現したり抑え込みすぎたりすると、人間関係の悪化やストレスの原因となります。

基本は、自分の怒りの原因や状況を認識し、まるで物体であるかの如く客観視することによって、その感情を適切に消化しながら冷静に対処することです。心理学的には、怒りはストレスや不満、フラストレーションと密接に関係しており、これらをコントロールする術を身に着けることで、心の健康や良好な人間関係を築くことを可能とするものです。

思考の切り替えに関する正しい知識や技術、深呼吸やリラクゼーション法による補助方法などを身に着ければ、多くの場面で怒りに振り回されずに冷静に対応できるようになります。

5. アンガーマネジメントの具体的な方法

怒りをコントロールするのは簡単ではありませんが、いくつかの効果的な方法を知っておくと、冷静に対処できるようになります。以下に代表的な方法を紹介します。

(1)感情日記の活用

「文字化」は、自身の感情を整理して客観視する上で非常に有効なテクニックの一つです。日々の自身の感情を記録することで、自分自身の怒りのパターンや引き金となる状況を理解でき、自らがそれを的確に理解し、「次はこう対処しよう」と、具体的な解決策を示してくれます。

また、傷つけたくない他者にそれを伝える上でも、自分自身がよくわからないまま怒りを伝えるのと自身の感情を整理して客観的に伝えるのでは、当然、相手の受け取り方も変わってきます。

(2)一時的に時間と距離を置く

怒りが高まったときは、わずかな時間でもその原因から距離を置くことをお勧めします。人は「振り返り」という行動を通じて自身の心を整理することができ、わずかな時間でもそれが可能です。嫌なメールを見て気持ちが高ぶったのであれば、まずはスマホを置いて散歩に出たり、別の作業に取り掛かったりして、気持ちを落ち着かせることに集中しましょう。

(3)ポジティブな自己対話

自分自身に優しい言葉をかけることで怒りを和らげることができます。頑張り屋さんは特に、「自身に厳しく。」、「自らを律する。」との気持ちで、自らに我慢を課しています。しかし、そういった気持ちが強ければ強い人ほど、それが「誤った厳しさ。」に陥ってしまわないように注意を払う必要があります。

待ち合わせに遅れてきた友人にイライラした場合、「自分だったら遅れたりしない。」と考えていてはイライラが続くだけです。まずは深呼吸をして、「待つのも相手を思いやる時間だ」と自己対話します。すると、あなた自身の気持ちが穏やかになり、それだけでなく、きっと、その後の友人との時間の過ごし方も変わってくるはずです。

(4)呼吸法やリラクゼーション

アンガーマネジメントには考え方に関するテクニックや知識だけではなく、簡単な「動き」も効果的です。怒りを感じる場面に遭遇したら、まずは深呼吸を試みましょう。鼻からゆっくり息を吸い込み、数秒間止めてから口から静かに吐き出すと、それだけで心が落ち着きやすくなります。

「怒り」というものには必ず「ピーク」があります。そして、そこさえ乗り越えれば、実は大半の人が落ち着いて物事に冷静な対処ができます。

いかがでしょうか。気になるものや、実践してみようと感じるものはありましたでしょうか。

6. アイ(自分)メッセージの活用

離婚後父母による共同子育てにおいては、「自身も相手もセンシティブ」というケースが少なくありません。そういった父母の皆様にお薦めしているテクニックが、「アイ(自分)メッセージ」の活用です。

例えば、父母の一方が交代監護の待ち合わせに遅刻した場合、「あなたはいつも遅刻してばかり。」と、相手を責めるのではなく、「予定が狂ってしまって困っている。」と、ご自身の立場をそのまま伝えるのはいかがでしょうか。これらは結果として同じことを言っているのですが、「相手を攻撃しない、相手を責めないコミュニケーション。」の工夫が、「相手にとっての受け入れやすさ。」を大きく左右しており、その違いがもたらす結果は、実は少なくないものです。

これは離婚後の父母に限らず、日常の社会生活においても大変重要なものです。相手の悪いところを口に出して責めるのではなく、「それによって自分がどうであるか。」を伝えることで、相手の行動を促すことができます。

「言い方ひとつ」かもしれませんが、その一つが、実は、明日からのあなたの世界を大きく変えてくれる鍵になるのかもしれません。

おわりに:アンガーマネジメントを通じて最適な子育て環境を

共同親権・共同監護を円滑に進めるに為は、お父さん・お母さん、双方が自身と相手の感情を適切にケアしていくことが不可欠です。感情的になると、子どもに安心できる環境を提供しづらくなり、不安や混乱を招く恐れがあります。

アンガーマネジメントは怒りの感情を適切にコントロールし、人間関係を建設的なものに導いていくための技術です。小さな習慣を積み重ねることで、父母間の感情的な衝突をやわらげ、子どもにとって安心できる環境を整えることができるようになります。

また、感情をコントロールできるテクニックは自分自身の心の健康にも大変良い影響をもたらします。まずは無理のない範囲で小さなステップから始めてみてください。また、不慣れな間は専門家の助けを求めるのも非常に有効な手段です。

アンガーマネジメントを学び、実践し、継続させ、穏やかな毎日を過ごすと共に子供にとっての最適な環境づくりを意識しましょう。

参考サイト:一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会