はじめに
2025年4月ごろの施行が予定されている共同親権。この制度は「子供にとっての幸せ」を最優先するために、今や世界のスタンダードとなっている制度です。
しかし、「本当に共同親権は子供に良い影響をもたらすの?」と疑問を感じる方もいるかもしれません。この記事では、共同親権が子供たちの心と成長にどのような側面からポジティブな影響を与えるのか、5つの観点からお話させて頂きます。
1. 自己肯定感の確立
両親の離婚後、共同親権を通じて双方の親から育てられた子供達は、「離婚後も両親から愛され、必要とされている」というメッセージを継続的に実感しつつ育つことになりますが、これによる大きなメリットは、子供自身の自己肯定感の確立と言われています。
単独親権では、親権を持たない親(非親権者)と子供の関係が希薄化する傾向が顕著に確認されており、これによる子供への悪影響が強く懸念されています。
事実、令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果では、「離婚時に親子交流(面会交流)の取り決めをしている。」と回答したのは、母子世帯・父子世帯共に全体の内の約30%であり、「現在も親子交流を行っている。」と回答したのは、母子世帯で約30%、父子世帯で約50%と、大変悲しい事実が驚きをもって確認されたところでした。実に、両親の離婚に遭遇した子供達の約7割程度が、片親から愛情を受ける権利を喪失している構図となっていたのです。
そして、これらの親と会えなくなった子供達の多くが、「自分は片方の親から見捨てられたのではないか」という不安を抱き、時には、「両親の離婚は自分が悪かったのではないか」という罪悪感を抱いてしまう事例も報告されています。離婚の多くは親側の都合であるにもかかわらず、こうして子供が負い目を感じ、自分自身に自信を持てなくなる点は、大変悲しむべき点ではないでしょうか。
一方、共同親権では、両親が協力して子供を監護し、離婚前と同様にそれぞれが子供に直接愛情を注ぎながら子供を養育していく為、子供は、「どちらの親からも自分は大切にされ、愛されている。」という、強い確信を持つことができます。そして、この安定した愛情の基盤が、子供が自己肯定感を育む上で必要不可欠なものとなっています。
皆さんも、何かしらの困難に直面した際、「何があっても、両親は自分を愛してくれている。」「傍にいなくても、両親が私を応援してくれている。」、そういった感覚を胸に抱き、背中を押されたことはありませんか。そういった感覚こそが、「自己肯定感」と呼ばれるものの一部であり、「困難を乗り越えていく力」ともいえます。なお、これは子供時代だけでなく、成人後の大人になっても重要な役割を果たすものといわれています。
2. 経済的な安定
共同親権は子供及び父母双方の経済的安定に絶大な効果があるといわれています。その理由は、共同親権下では双方の親が経済的・精神的な養育責任を分かち合うことを前提としているため、養育費の支払いが、「義務」ではなく、「子供の生活への積極的な関与」という位置づけに変化するからです。
海外諸国における論文や研究では当然のこと、現在では、国内においても、「離婚後も父母双方が子の親権を持つ共同親権であれば、離婚後も父母双方に子の養育責任があることが明確になり、円滑な面会交流や養育費の支払確保が期待される(参議院常任委員会調査室・特別調査室:離婚後の共同親権について)」といった主張が定着しており、子供の経済的基盤の安定、ひいては、その子供を養育する父母双方の経済的安定にもつながることが大きく期待されています。
3. 健全な人間関係モデルの学習
子供が親から学ぶものは言葉で教えられるものだけではありません。特に言語能力の発達していない幼少期を中心に、子供は常に親の表情や行動を監察し、そこから多くを感じ取り、様々なことを学んでいるといわれています。そして、そういった「子供目線」で物事を捉えた際、単独親権と共同親権が子供に与える影響は大きく異なるものとなっています。
3-1. 建設的人間関係モデルの学習
子供は多くの物事を親から学んでいます。それは箸の持ち方や文字の書き方といった「目で見えるもの」に限る話ではなく、生活パターンや各種慣習などの社会性もそうです。そして、その社会性の部分に関して非常に重要なものの一つが、「人間関係モデル」と呼ばれるものであり、「信頼関係」、「共感性」、「愛着」、「尊重」、「対立」、「処世」などといった、対人関係に関する己の理解や対処方法についてです。
そして、子供が見る親同士の関係性において、単独親権は、(少なくとも制度としては、)いわば、「縁切り」に近いものですから、そのような関係に至る両親を見て子供が理解する「人間関係モデル」としては、「人間関係とは刹那的で、その本質は個の利害」といった方向性に陥りがちです。
一方で、親同士が対立に折り合いをつけ、共同親権下で子供(自分)の為に協力・妥協し合う姿を見た場合、子供は、「人間関係とは継続的・建設的で、その本質は愛情・互助。」との印象を受けることでしょう。
また、こうした子供時代に両親を通じて学んできた人間関係モデルの学習が、その後の子供達自身の発育に大きな影響を与える点は言うまでもないことです。
共同親権は、「両親が見せる人間関係モデルの手本」という観点において、単独親権とは全く逆の側面を子供に見せることができます。そして、これは、子供が将来他者と良好な関係を築く上でも、非常に重要な経験となるものといえるでしょう。
(参考文献:Joint Custody and Shared Parenting: Research and Interventions, Marsha Kline Pruett PhD他)
3-2. 親子交流の安定性、量的質的向上
なお、これは補足となりますが、単独親権と共同親権ではそれぞれの親子交流の位置づけが大きく異なることから、離婚後に子供が父母双方と関り続ける基盤の強弱に大きな違いがあるといわれています。
単独親権では法的な親を一方に定めますので、親子交流が、いわば、「過去に親子の関係にあった人達の交流」として位置づけられており、「子供の健全な発育の為に必要なもの」としての側面が希薄なものとなっています。「親権って何?─親権の仕組みと法律をわかりやすく解説」の記事でもお伝えしましたが、これは、現行民法が「家制度」を軸に考えられた明治民法にルーツを持ち、「家族は家長に服し、子供は親に服す」ものとしての色合いが強いことが関係しているといわれています。
なお、世界的な人権保護の機運の高まりを受け、1994年、日本も子供の権利条約に批准し、子供が親に服すものではなく、一つの権利主体であると認めました。また、2012年の改正民法では、「親子交流は子の利益を最も優先して定めなければならない」旨を定めました。しかし、大変残念なことに、裁判所の運用実態には大きな変化がなく、2025年段階でも、「子供が望む場合でも親権者が拒絶する場合は親子交流が認められない」といった事例が多発しているものといわれています。
共同親権では、親権者/非親権者という概念自体がなく、また、親子交流が「子供の健全な発育に必要不可欠なもの。」として位置付けられているため、(裁判所の動向には注視が必要ですが、)子供の権利保護に対する要請の度合は非常に強く、親子交流の安定性・質的量的側面が向上するものと期待されています。
4. 教育・医療の充実
共同親権では、両親が子供の進学や医療に関する重要な決定を共同で行う為、その質的な向上が期待されています。
4-1. セカンドオピニオンによる視野拡大
単独親権においては、一方親が進路や医療方針などの重大な決定を独りで決定する権限を有しておりますが、親も一人の人間ある以上、いかに聡明な親御様であっても、常に最善の選択肢を提示できる保証はなく、むしろ、どの家庭も「子育ては常に試行錯誤」が実態であり、それがかえって健全ともいえるところです。
共同親権においては、夫婦としては離婚となってしまった父母であっても、子供にとっての最善という共通のゴールに向かって真摯に意見を出し合う仕組みとなっていることから、両親がそれぞれ思う子供にとっての最善を協議し、それぞれにセカンドオピニオンを得て多角的な視点から物事を判断できますので、質の高い意思決定が行われやすくなります。
4-2. 盲点回避による養育の質向上
親は自身の経験と照らし合わせながら子供を監察し、アドバイスを行います。そして、当然、他人と全く同じ経験を経てきたという人はいません。子供の体調や医療は当然のこと、心身の健康や学校や友人間での悩みなど、単独親権での独り親では「気づいてあげられなかった」という事態も、共同親権による二人の親であれば、気づいてあげられる幅が格段に大きくなるものといえます。
5. 理解と適応
今日において共同親権は圧倒的なグローバルスタンダードとなっており、(残念ではありますが、)未だ単独親権を採用している国はG7で日本のみ、G20でインドと日本のみとなっています。そして、既に共同親権へ移行している国々で多く語られているのが、社会全体や子供自身による、「多様な家族の形」への理解です。
単独親権下では両親の離婚というのが全般悲しいものの印象が強く、特に子供が学校などで、「自分だけパパ/ママがいない」という寂しい思いをするのは、不可避に近い状態となっています。
他方、皆さんも海外映画やドラマに出てくる「ステップファミリー」の様子や、両親が離婚した家庭で子供が「今日はパパ/ママのところに行く日」などと当然のように話している様子を見られたことはありませんか。それらは決して「悲しいもの」というトーンではなく、どこか「少し寂しいけど、それが当たり前」とさえ感じさせてくれるものです。
単独親権では「夫婦の別れが親子の別れ」に近しく、これに対して、子供自身の理解や適応が困難であることはいうまでもないことです。他方、共同親権であれば、夫婦がどうであろうと親子の関係は維持されます。子供が両親の事情を理解し、新しい生活へ適応する上で、その負担は大きく異なるものとなっていくでしょう。
おわりに
今回は子供にとって共同親権が有益とされる5つの理由についてお話してきました。お子様を持つご両親にとって、離婚となった際にまず頭に浮かぶのがお子様のことでしょう。共同親権は、「子供の為の制度」であり、そういった、「子供を第一に考えて行動する父母の為の制度」であるとも言えるかもしれません。
